街歩きの愉しみ4(等々力渓谷)


街歩きの愉しみ4 (等々力渓谷)

都の新規採用で、

高校全日制での勤務となった

最後の一年は担任として働いたが、

彼らを卒業させることもなく、

四年を勤め、

目黒区内の定時制課程に転勤した

制度に反していたわけではないが、

無責任の誹りは免れない

しかし、

私には時間が必要だった

/

新たに赴任した学校では組合から歓迎を受け、

等々力渓谷沿いにある

ロシア料理店での食事会に招かれた

都区内の環境事情にまったく無知であった私は

都会という喧騒のうちにありながら

静寂という異空間を成した造形美に魅了された

しばらくの滞在が望まれたが、

勤務時間前ではあり、

そのときは散策など、できようはずもなかった

/

当時、公立学校の労働組合組織率は、およそ八割

行政批判めいたことでも口にしていたのだろうか、

その翌年には分会長に祭り上げられた

だが、それは、ある事情で私にも好都合であったため、

ひとつの条件と引き換えに引き受けた

/

当時、教育委員会と労働組合との間には幾多の問題が介在していて、

所属長との交渉で矢面に立たされる分会長の負担は決して軽くはなかった

或る時、

或る懸案で、

組合本部からの指示を忠実に遵守しようと、

組合員の合意を得て、

管理職に叩きつけた

/

しばらくして、

指示の従徒であったのは、

私のみであったことが判明した

/

そのとき、私は、「大人」という二文字を理解した

/

職場にはさまざまな人種が存在した

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初めから、

授業以外は極力負担せずに

終業時刻を待たずに帰宅の途に就く輩

/

自分個人の負担を軽くするために

担当する分掌を利用して、

他に不利益を強要する輩

/

担うべき自らの責務を放擲して、 、

他者に負担させ、

それでいながら、

そこで功績が上がれば、

自らの昇進のために利用する輩

/

誰も引き受けたがらない運動部の顧問を

新任だからと押し付けられ、

日曜日が毎回のように消えてゆくなかで、

疲労に耐え切れず、

代休を取得したら、

全職員がいるなかで

罵倒された

/

私は孤立し、

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さらに転勤するまでの六年間、

絶望のなかで

勤務時間を最小限に止め、

労働を

ただの苦行として日々を重ねた

/

授業を終えた後で、

生徒が残した吸殻を拾い集めながら

屋上で、

独り、煌々と光る東京タワーを遠くに眺める

それが唯一の慰めだった

/

しかし、そんななかにあっても、

生徒との間では愉しいこともあった

/

あるときのこと、

校門からの帰宅途中、

後ろから足早に追いかけて来る

二十代の、看護婦をしている生徒、

呑みたいと言うので、

新宿で酒席を共にした

/

陰鬱として、

ぽつぽつと言葉をつなげるだけの授業

そんなあるとき、

担任する生徒の視線に気づき、

心に灯がともった

それから数年後の卒業式の後で

やはり、酒席を共にし、

矢継ぎ早に注文を繰り返す彼女に

目を丸くしながら、

将来を語り合った

等々、

/

夜間学校での思い出は尽きない

/

そうしたすべては記憶のなかへと沈んでしまったが、

幸福なひとときは

思い出すたび、

未だに愉しい

夜間学校ならではのこと、

良識の範囲を超えるものではなかったが、

今日(こんにち)のぎすぎすした教育界ではありえないだろう

/

二千二十一年、十二月、

たまたま偕行者を得て、

やり残していた

等々力渓谷を歩く

しかし、

その風景はどこか殺風景で錆びついて見えた

おそらく、当時は将来への希望というものがあり、

それが風景までも明るく見せたのだろう

風景がいかに見えるか、

それは、

そのときの自身を映し出す鏡なのだと思う

/

/

(ひさびさに実施予定であったテニスが東京午後ピンポイントの雨で中止、 その時間に天候をやっかみつつ記す)

2021.12.14


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