花のあとさき
六月、友人と連れ立ってムツばあさんの里を訪ねた。今は住む人とていない集落は迷宮のなかにあり、たどり着くのに困難を極めた。正しい道のりであったのに、間違えたと勘違いして同じ道を行き帰りした。郵便局員にさえ分からないと言われる。迷宮は迷宮を呼び、車一台で一杯になってしまう秩父路を巡りに巡って、一時間以上を費やし、ようやく集落にたどり着いた。 ムツばあさんの生き方からは人生の閉じ方を考えさせられる。生活を支え、自らを活かしてくれたものに感謝し、山に花を添えることでそれを返す。そして、「どんなに嬉しかろう」と訪ねて来る人をねぎらうための休憩所を作る。楢尾集落の住み人となったときから自然とともに在り、生きた人柄がそこに滲み出ていた。
環境は人を育てる。 「自然に帰れ」とはルソーの言葉である。文明によって生活の利便性は得られるものの、人はその善性、心の豊かさを失ってゆく。都会にあって人のなかで生活し、さまざまなことに気を遣い、怜悧に生きようとすることでストレスを溜め込んでゆく。寺院が人里離れた処にあるのは、そんな処にも理由があるのだろう。 執着を捨てて、生きとし生けるものに活かされるという生き方、ムツばあさんの笑顔には少しの邪念もない。環境に恵まれて穏やかな一生を映す、その笑顔に惹かれた。



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